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第四話「兎の面とベルゼさん」

私はベルゼブブ。ブタを模る豚の面、暴食を与えしもの。

私が趣味でやっている畑の様子を見に行くと今日は一人の少女が不服そうに立っていました。

「ベルゼブブ、あんたいつもこの時間なの?待ちくたびれたんだけど。」

「おや、兎の面ではありませんか。お変わりないようで何よりです。」

にこやかに言うと彼女は整った眉をひそめて私を睨みつけてきました。

彼女は兎の面、いつも持ち運んでいるカバンにウサギのチャームがついていることから私がそう呼んでいます。とても美しい顔をしている彼女ですが、今日は何やら機嫌が良くないようです。私は知っています、この感情のことを最近では「おこ」と呼ぶことを。


「おこなのですね、兎の面。」

「ええ、おこよ」

あ、おこなんだ、そうなんだ。

は?とでも言われるかと思っていましたがすんなりと受け入れられるのも拍子抜けです。


「この有様はなんなの?ベルゼブブ」

「有様、といいますと?」

私の畑を指さす兎の面。なにか間違った工程を踏んでしまっているのでしょうか。


「聞いたわよ、アスモデウスから!あなたの作る野菜たちは凄く美味しいっていうじゃない!あのトマトちゃんの赤々とした姿はなに?!トマトはビタミンCを多く含んでいて、リコピンは1995年にがん予防の効果が指摘されて以来注目を集めるようになったし、トマトに含まれる13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxo-ODA)に血液中の脂肪増加を抑える効果があることが発見されたのよ?日本において、トマトジュースやサプリメントなど一部のトマト製品は血中コレステロールや血圧などの改善効果を謳う機能性表示食品として販売されているのは知ってる?!( 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 )」

「おい最後」

「どうして・・どうしてこんなに素晴らしい野菜たちをどうしてもっと高く売らないの!商売をなんだと思ってるの?はぁ、やる気のないやつの相手してらんないんだけど。さっさとそれ(販売価格表)、渡して私に任せてくれる?あんたの存在意義は引き続き素晴らしい野菜を育てること、それだけ。わかった?」

「どこかで聞いたことのある台詞だけどすっごい褒められてる」


とにかく野菜に対して尋常ではない熱意があることは感じました。

更に私のこの野菜を高く評価していただけているということ・・・感謝の極みです。

しかし・・・


「なぜあまり関わりのなかった私にそこまで・・・?」

「べ、別に・・・あ、あんたのためじゃないわよ」

おやおやあ?この流れは・・・?私は知っています、このステータスのことを最近では「ツンデレ」と呼び、これが「フラグ」であることを。


「もしや兎の面・・・あなた・・・私のこt」

「獅音が!最近肌の調子が悪いって言うから???野菜でも食べればいいんじゃない?って思っただけ!それだけなんだからね!」

パタパタとかけていく兎の面の後ろ姿を見送りながら、私は静かに自分をさした指を下ろしました。

豚の面・・渡せませんでした・・・。

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