私はベルゼブブ。ブタを模る豚の面、暴食を与えしもの。
今日も趣味でやっている畑の様子を見に来ました。
本日の私はとても機嫌がいい。なぜなら昔馴染みの友人と会う約束をしているからです。
なかなか頻繁に会える距離でもありませんし、彼女がここへやってくるのは神出鬼没。
今回はたまたまルシファーと彼女が出会い、そこで私との約束を取り付けてくれたのです。
「ふふ、楽しみですねえ。」
「なあにが楽しみですねえ、だ。なんで俺様が豚の面倒なんかみなきゃいけねえんだっつーの」
「おや、面倒をみられているの間違いでは?ルシファー」
「チッ、るせぇぞ豚。俺様があの店に行ってなきゃこんなことにはなってねえんだ。礼のひとつでも寄こせっての。」
「では豚の面を差し上げましょう。」
「いらねっつってんだろ!」
寄こせと言ったりいらねえと言ったり忙しいですね。おや、あそこにいるのは・・・!
「ベルゼブブ、お久しぶりですね。」
「豚の面もお元気そうでなによりです。」
彼女が豚の面、少々妄想癖がありますがとても気が合う私の友人です。
「今日も変わらずの素敵な畑で・・・・ハァッ!!!???」
「?!・・ど、どうしたのです豚の面!?急に叫んだりして・・・!」
顔を真っ赤にして口元を抑えている豚の面の視線を辿るとその先には・・・
「あ?なんだよ」
「・・・ルシファーもここにいらしたのですね・・・」
「はぁ?居ちゃ悪いかよ。豚がついてこいっていうから仕方なく居るだけだ」
「・・・・・」
黙り込んでしまった豚の面。ああ・・・また始まってしまいましたか・・・
「キャーキャー!!ルシファー様とまた出会ってしまいました・・!どうしましょう!」
「チャンスよ!ベルゼブブを殴るなり蹴るなりして気絶させれば二人きりのラブラブタイム発生よ!」
「でもでもラブラブタイムだなんて・・!その間何をしたら・・!緊張して話せなくなってしまいます・・・!」
「大丈夫!あの腹筋よ!大好きなあの腹筋を褒めまくればいいの!超大盛り上がりよ!!」
「・・・・あいつ大丈夫か。」
「気にしないであげてください。いつものことなので。」
彼女の妄想癖は自身の中の天使と悪魔が葛藤している内容を口に出してしまうというもの。
心の声がすべて洩れていることに彼女は全く気が付いていません。
「でもでもあの腹筋を褒めたら私・・・勢いで触ってしまうかもしれませんよ・・!そんなことって許されるはずありません・・!」
「問題ナッシングよ!!あのケーキ屋さんで出会えたことはもはや奇跡を通り越して運命!ディスティニー!!挙動不審を紛らわせるためにベルゼブブとの約束をお願いしたけれどそんなことはどうでもよかったじゃないの!!!」
横を見ると顔を背けているルシファー。
「ケーキ屋さんとは?」
「俺にはなんのことだかさっぱり」
「あなたよく落ちていたとか言ってケーキを幾つも持って帰ってきますが」
「なんのことだかさっぱり」
「もしかしてあなた」
「なんのことだか」
「推しは?」
「イチゴのショ~トケーキ」
何点かあえて触れずに聞き流している言葉もありますが、こればっかりは許せません・・・!
私も黙ってばかりはいられませんよ・・!戦争です!!!!
「いい加減なことをおっしゃらないで下さい!推しはモンブランに決まっているでしょう!!!」
「ああ?!栗なんてどこが美味いんだよ!?」
「イチゴこそ酸っぱいときと甘いときの差が激しすぎるんですよ!!期待しちゃったときの落差が半端ないでしょうが!!」
「生クリームの甘さとイチゴの酸っぱさのバランスがいいんだろうが!!わかってねえな!!」
「しっとりとした甘さの栗がもうその存在ひとつでバランスとってんですよ!」
言い合う悪魔と大きな独り言を言い続ける人の子。
それはまさにchaos。混沌の様であった。
「・・なんだ、あれ・・こわ。」
たまたま通りかかった獅の面がそう呟いていたことは誰も知らない。
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